麻雀と喫煙文化の関係性の変化
改正健康増進法が施行されてから2か月が経った。飲食店では喫煙席か禁煙席かを聞かれることは無くなり、カラオケやネットカフェでもタバコは喫煙ルームへその都度移動するようになった。果てはパチンコ業界でさえ遊技中の喫煙を基本的に禁止した(基本的と言ったのは、電子タバコは可と言う例外があるため)。重度も重度の喫煙者である私としては、そんな馬鹿なと思いたくもなるが、これが意外と好評らしい。喫煙席を無くすことで飲食店ではファミリー層の集客が狙え、パチンコ屋にしても女性客の来店が増加したそうだ。あるいは空調設備のタバコの煙による劣化も防げて、案外利点は多いようだ。
尤も、新型コロナで外を出歩く人が減少している以上は、そのデータに如何程の信頼が持てるのかは疑問だが、そもそもの喫煙者人口の総数が減り続けている今の時代故の流れなのであろう。かのナチスドイツのヒトラーでさえ国民が不健康になり医療費が増加するだけで利益を産まないとタバコを禁止したというのは有名な話だ。
さて、麻雀業界においてもその波は押し寄せたし、今後も第2第3の波が押し寄せることだろう。それはそんな時勢である以上甘んじて受け入れるしかないのだろうが、それによる影響とはどのようなものであろうか。考えてみたい。ただ、私自身がヘビースモーカーである以上ここからの話は当然のように喫煙者側の一辺倒な偏見にはなるのでご了承を。
麻雀業協同組合が都内数百店舗の麻雀荘を調査したところによると、その喫煙人口は62%と言うデータがある。3人に2人が喫煙者と言う数値自体は私自身さして驚きはないが、客観視した時に異常だというのも頷ける。まして関西の雀荘では喫煙率はそれより多いという話もある。
厚生労働省のデータでパチンコ屋での喫煙率が約50%、飲食店での喫煙率は約40%と言うことを考えても、この業界の喫煙人口は明らかに多い。私がその業界に内在している喫煙者である以上、その点の良し悪しを判断するにはバイアスがかかりすぎているが、非喫煙者の登場を遮る高い壁となっているのは想像に難くない。勤務中でも、タバコの匂いを気にするお客さんや、雀荘用に着替えを持ってきているお客さんもいた。日常的に喫煙を繰り返すとその匂いは気にならなくなるが、非喫煙者にとっては大きな弊害となるのだろう。ましてや、麻雀と言う目的とは関係ないものの為に意欲が阻害されるのは問題である。
が、麻雀と言う歴史はタバコが重要な役割を果たしている。それもあるいは私が美化しているだけで、不必要なものであると言われてしまえば、それに返す言葉もないのだが。
哭きの竜においては、主人公である竜がタバコを持ち、紫煙をくゆらせながら言う「あンた、背中がすすけてるぜ」が名シーンかつ名台詞となっているし、むこうぶちでも主人公の傀はニヤッと笑いながらタバコに火をつける。天牌の沖本瞬も、アカギの赤木しげるも。
プロのテレビ対局にしても21世紀に入るまでは喫煙しながら闘牌を行うプロはたくさんいたし、麻雀劇画においても大半の人間はタバコを吸っている。そして何より、マンガのキャラクターにせよ実写の登場人物にせよ実在のプロにせよ、見事な和了りをした後にサッとタバコに火をつけてそれまでの闘牌中の真剣な眼差しとは打って変わって落ち着きの表情を見せる。これが、映像における動と静、すなわちヒートアップとクールダウンが一瞬で表せる1つのパターンとして魅力的なのである。
ただ、それには時代背景の影響が大きいとも思える。例えば、桜井章一の全盛期(この言い方は失礼かもしれない、現在でも現役だし)である裏プロ時代を描いた作品である雀鬼が舞台とする1970(昭和45)年の男性の喫煙率は、厚生労働省のデータでは77.5%。天牌やむこうぶちの連載が始まった1990(平成2)年でも男性の喫煙率は60%ある。大半が喫煙者ならフィクションだろうが感情移入はしやすいだろうし、重要なアイテムとなり得る。
が、2002(平成14)年に喫煙率が50%を割り込んで以来、連載が始まったマンガの主人公も非喫煙者が増えたように感じる(勿論裏・闇の世界やアングラな社会での麻雀は別として。それらを題材にした作品ではその場の空気を醸し出すのにタバコがよく使われる)。まぁ、連載が続く長寿マンガで現実社会の時勢の影響で突然タバコを吸わなくなるのも変だし、内世界においては時間の経過は無いのと同じなので、コナン君が半永久的に小学一年生なのと同様に、傀はニヒルに喫煙し続けるし、アカギは安いハイライトを買い続けるのだろう(ちなみに現在ハイライトは450円。うーん時代の流れを感じる...)
ある種のパラダイムシフトはどの業界どのジャンルにも起こり得ることであり、それを完璧に予測することは難しいだろう。あるいは、それを予測出来たらパラダイムシフトでは無いというパラドックスでもある。我々が今常識的に行っている所作や行為についても、10年後にはその根本が変質している可能性を秘めているのだ。麻雀と言うゲームにおいて、一般的なアイテムであったタバコが、そのメインの地位を降りることを誰が予想しただろうか。
禁酒禁煙の健康麻雀が隆盛を極めていくのであれば、今後変化するルールは何なのだろうか。それは誰にも分からない。だからこそ面白いのかもしれない。
なお、私は重度の喫煙者ではあるが、法律には賛同しているし、時代の流れは受け入れるしかないと思っている。