「ジャズ」を聴こう
「ジャズ」と聞いて、どんなイメージを思い浮かべるだろうか。
おっさんくさい、金持ちが書斎でレコードかけて悦に入っている、そんなイメージを持つ人は実際多いだろうとは思う。実際小難しい理論で武装する連中の多い界隈に一歩踏み出すのはそれなりの度胸がいるものだ。『興味はあるけど...』と億劫になるのも理解できる。
が、ジャズの世界観はJ-POPなりロックなりを聴く我々聴き手のキャパシティを圧倒的に増やしてくれるし、何なら最近の音楽チャートを賑わせるアーティストの曲の端々にその世界観の片鱗が見て取れて微笑ましい。このニヤニヤが世間のサイレントマジョリティに敬遠される一因だということは置いといて。
さて、ジャズとて西洋音楽の文化なのだから、当然のように横文字が多い。大体の音楽は横文字が多いのだから何を今さらな気もするが、アインザッツだったりグロッケンシュピールみたいなゲルマンテイストな響きの用語は殆どない、大概が英語で表される。これはジャズのルーツが米国で生まれた歴史としては新しい分野だからであり、欧州の技術だったり理論と黒人独特のリズムだったり民俗音楽のハイブリッドである。ギュッと簡単に言えばブルーノートだとかスウィングとか即興演奏、つまりはインプロヴィゼーションなどの特徴を持つ現代音楽なのだ。いやこれだとむしろ分かりにくくなっただけか。
話は逸れるが、アニメ「けいおん!」の中で主人公の唯が澪に好きなギタリストを聞かれて、実は入部辞めに来たと伝えようとして『じ、じ....』としどろもどろになって『ジミー・ペイジ!?』『ジミ・ヘンドリックス!?」『ジェフ・ベック!?」と挙げていき、唯が『ギタリストってそんなジで始まる人多いの...泣』となるシーンがあるが(個人的には随一で面白いシーンではある)、まぁ確かに可愛い女の子の出てるアニメ!デュフフとなってるアニヲタや、J-ROCKは聴くけど洋楽は手を出さない人種は唯と同じことを思うのかもしれない。が、私からすればここで挙がった3人はThe・有名どころな3人なのは否めない。
あえて説明するならジミー・ペイジはあのレッド・ツェッペリンのギタリスト(私のオススメは「Trampled Under Foot」)、ジミヘンはトレモロユニットのアーミングなどによってストラトを現在のようなエレキギターの代名詞まで持っていった伝説の人物で、歯で弾いたり火をつけたり風変りではあったがホントの天才である(個人的には「Little Wing」がオススメ。ジミヘンのニュアンスが凄く伝わる)。ジェフ・ベックは個人的にロッド・スチュワートらと結成したジェフ・ベック・グループのイメージが強いがアルバム「Guitar Shop」や楽曲「Escape」でのグラミー賞受賞など、フュージョン・テクノの分野への転化が鋭いギタリストである(オススメできるほどジェフは聴いてないが「Scatterbrain」が個人的に好みではある)。
と言うかジミヘンは確かに無二の天才なんだけどジミーとジェフは元々ヤードバーズの出身だしここにエリック・クラプトンを加えた3人が3大ロックギタリストとも言われる(ちなみにエリックもヤードバーズ出身)のだから、この羅列は何かモヤモヤする。
話が逸れて大分経ったが、つまりはこの3人は挙げとけば通ぶれる路線には違いないということだ。競馬のオリビエ・ペリエ、競艇の彦坂郁雄、パチンコの田山幸憲みたいに、素人は聞いたこともない側(武豊じゃなくてオリペリ、松井繫じゃなくて元祖艇王、ヒラヤマンじゃなくてミスターナナシーなのがミソ)だが、かじったことのある人間には分かる路線なのだ。別にロックの話をしても良いが、今回はジャズの話なのでここら辺にして、何が言いたかったかと言うと、ジャズにもそんな路線がある。
まぁそもそもジャズ自体が若干ニッチなジャンルな感も否めないので、どこからが通ぶれるかは何とも言えない気もするが、そういやそもそもジャズの本線ってどこだ!?このままじゃジャズよりギタリストの方が内容が厚くなるのでいっそ何人か挙げておこうか。ぶっちゃけ何人分かるのかって気もするし。
まずは、個人的に挙げておきたいビル・エヴァンス。これは流石に知られてるとは思うが、今回のコラム自体マニアックな内容なので私が偏ってるだけかもなので一応説明する。印象主義的とも評される和音、『それジャズにするの!?』と言う題材、そして時代を先取りしたインタープレイなど、挙げればキリがないが、彼のアルバムは今聴いても新しさと懐かしさを感じることができる。ピアノトリオ、つまりはピアノ・ウッドベース・ドラムの構成においての主力はピアノが取るのが当然であった1960年代当時において、「ピアノは元の音楽を飾るもの」と言う価値観は驚きをもって迎えられ、「Waltz for Debby」は今でもジャズの歴史に残る名作アルバムである(オススメは「Some day my prince will come」。こんな白雪姫アリ)。
次にチャーリー・パーカー。これも聞いたことないジャズファンはモグリだと言い切れるくらいのジャズの巨人。トランペット奏者のディジー・ガレスピーとともにビバップ、言い方を変えれば現在のモダンジャズを作った人である。ヤードバードやバードの通称で親しまれ、先ほど話したヤードバーズもバンド名はここから取っている。しかもこの通称から取ったのがあのマンハッタンのジャズクラブのバードランドであり、さらにそこからジャズの名曲「Lullaby of Birdland」が生まれたことを考えると感慨深い。その早すぎる死が悼まれる(オススメは「Now's the Time」あぁジャズっていいなって思える名曲)。
チャーリーの次にあげるなら関係のあるマイルス・デイヴィスだろうか。彼はモダンジャズの帝王と称されることもある人で、若かりし頃にはチャーリーらと共演もしている。尤もその時のことを回顧して『バードとディズの演奏を聴いても何が何だかさっぱり分からなかった』とぶっちゃけている。これを言えるだけでも凄まじいとは思うが、マイルスの個性を感じるのは70年代からジャズ界の流れがクロスオーバーへと動いた中で、彼はハードファンクを貫いた姿勢であろうか。あと単純に大汗かいて一心不乱にトランペットを吹く姿を撮影したジャケットがこれ以上なくカッコいい(オススメはアルバム「Kind Of Blue」。モードジャズの流れを作った名作である)
ジョン・コルトレーンも勿論挙げなければならないだろう。チャーリーらによって構築されたアドリブ論を現代向けに再構築、ジャズに限定されない音楽全体に用いることのできるアドリブとして現在も活かされている。また、40歳の若さで既に亡くなっているが、彼の遺した録音はアルバム換算200枚を超えると言われ、死後60年近く経った今でも未発表の音源が掘り出されるのもファンには堪らない贈り物となっている(オススメは「Impressions」。ジョンのほかにピアノマッコイ・タイナー、ベースジミー・ギャリソン、ドラムエルヴィン・ジョーンズと言う面子のヴィレッジ・バンガードでのライブを含めた録音。面子の豪華さに恐れ入る。とは言えマッコイのピアノなんてほとんど出てこないんだけども...)。
とまぁ私の個人的な好きな所をあげつらったわけではあるが、ぜひともどれか1つ聴いてみていただければ、ジャズの雰囲気など分かってもらえるのではないかと私は思うのである。ぶっちゃけた話、このジャンルを理解できれば日本のJ-POPシーンで最近意味も分からず騒がれている「エモい」のニュアンスもより分かりやすくなるとは思うのである。