中国役入門:第3章「ここからが中国麻雀の個性」
さて、一瞬脱線を挟んだが、中国役の説明を続けたい。1桁役は日本麻雀にも対応役があったり、あるいは何となく言いたいことは分かるというのも多かった。が、ここからはぶっちゃけ何じゃそりゃという役が増える。付いていただければ幸い。
前回は8点役まで紹介したと思うので、今回は12点役から。
・全不靠(チュェンブカオ )
はい出ました名前から全く想像つかないシリーズ。この役は萬筒索でそれぞれ147・258・369、東南西北白發中の中から任意の14牌で構成した際に成立する役である。なるほど、分からんとなるのもごもっともである。例えば147萬25筒369索東南北白發の手牌なら8筒・西・中の3面張である。説明文では分かりにくいかもしれないが萬筒索での構成牌はそれぞれ同一の筋で無いといけない(158萬などは不可。1種につき1筋で無いといけない)。
・組合龍(ヅーハーロン)
はい続きます想像つかないシリーズ。これも上と同じ概念を使うのだが、同種で同一の筋の牌を面子として扱って和了った際に付く役。つまり147萬258筒369索で3面子なのである。なおかつこれらは順子の扱いなので、数牌待ちなら平和が複合する。にしても147で1面子...日本麻雀に慣れすぎるとなんだその概念とは思ってしまう。
・大于五(ダーユーウー)
これは日本語訳するなら「5より大きい」と言う意味である。文字通り、和了形の構成牌が6789で構成されている場合に成立する役。58両面待ちの際には8高目でこれが付いたりする。
・小于五(シャオユーウー)
はい分かりますね。5より小さいんだから1234で構成されたときに付く役です。
・三風刻(サンフォンコ)
日本のローカル役で言う三風である。風牌3つを刻子にして和了った場合に成立する役である(鳴きも可)。
以上5つが12点役である。開幕から既に日本麻雀の価値観をぶち壊しに来ているが、何度も言うが本家本元はこちらである。
次に16点役。
・清龍(チンロン)
はい、龍が出てきましたよ。花龍を覚えているだろうか定かではないが、あれは三色イッツ―、これは一色イッツ―、つまりは一気通貫である。
・三色双龍会(サンソーシュヮンロンフィ)
中国役で三色と付く役には基本的に一色の上位互換が存在するのだが、以前に紹介した一色双竜会の下位互換である。二色でそれぞれ123と789を作って、三色目で雀頭の5を作って和了ると成立する役。これも以前言ったが、123123と789789をそれぞれ竜に見立てているオシャレな役。
・一色三歩高(イーソーサンブガオ)
これも三色三歩高の上位互換。三色の時にも説明したが、数字が1ないし2ずれた3順子を作った時に成立する。三色は1つしかずれてはいけなかったが、一色は2つずれても良い(123345456みたいに1つずれたのと2つずれたのが共存できる)。
・全帯五(チュェンダイウー)
全帯么を思い浮かべた時に么とはすなわち么九、端牌のことである。と言うことは全帯五は全てに五が絡む、というのは容易に想像が付くだろう。つまりはそういうこと。
・三同刻(サントンコ)
日本の三色同刻に相当する。問題は双同刻が6点、三色三同順が8点役に対して三同刻が16点という部分にある。同順より同刻の方が2倍の点数設定がされているのは私としてはバランスが良いと感じる。食い下がりが無い以上これぐらいが丁度いい。
・三暗刻(サンアンコ)
日本でもお馴染みの三暗刻がここに登場。三色同刻と三暗刻が同じ点数なのは日本と同じである。
以上6つが16点役である。知っている役があったり、応用できる役が多いのは覚えるうえで助かる点であろうか。
次に24点役。
・七対(チードイ)
これは分かるね、日本の七対子である。
・七星不靠(チーシンブカオ)
不靠では先ほど全不靠が登場したと思うが、これはその上位互換。東南西北白發中がそろっている全不靠はこれになる。七星ってのがカッコいいよね。
・全双刻(チュェンシュヮンコ)
偶数牌でのみ構成された和了形で成立する役。日本では奇数偶数とかはあまり考えないので新鮮に思える。
・清一色(チンイーソー)
日本の清一色がここで登場である。それよりもチートイとチンイツが同じ点数ということに驚きを隠せない位置にいる。まぁ混一色が6点であるからその4倍は十分な気もするが(日本では混一色が3翻だから清一色が12翻の位置にいることになる。あるいは逆に清一色6翻から逆算すると混一色が1.5翻になってしまう。とは言え日本では役の天井である役満を13翻の位置に設定してしまっている以上それによってバランスブレイクを起こしてしまっているのでしょうがないというのは以前述べた通り。バランスで言えばこちらの方が均整がとれている)。と言うかそもそも七対はその源流がアメリカ麻雀で出来た役なので、チートイとチンイツが同じ位置にいるのが違和感と言うよりは、後から加えられたチートイの位置に違和感があると言った方が正しいかもしれない。あるいは別角度から考えると、日本の麻雀において清一色は単体役では役満を除く最高役である。オプションで平和などの軽い翻数役を付加する程度のプレイングしかできない。しかし中国麻雀ではここより上に清一色を狙える高点役が多数ある。清一色がゴールかスタートラインかという感覚の違いが感じられる。
・一色三同順(イーソーサントンシュン)
一色三順というローカル役が日本にもあるが、それである。三連刻は刻子としての扱いだが、これは順子として扱ったパターン。
・一色三節高(イーソーサンヂェガオ)
ん?ちょっと前に出なかった?と思った人、さっきのは三歩高でこれは三節高である。ってこの説明は三色三節高の時にもしたと思うが、実際同じ説明をするしか無いので続けると、こちらは3種類の数牌の刻子で1ずつ上がる形(777.888.999)で和了ると成立。と言うか一色三同順でも触れたが順子として扱えば一色三同順だし、刻子として扱えば一色三節高が成立する。となると、ある程度麻雀を嗜んだことのある人には疑問が浮かぶだろう。「この2つは結局のところ同じことをタテで捉えるかヨコで捉えるかの違いこそあれ、点数の違いがあるわけでもないのに、両立する必要性がどこにあるのか」と。しかし、和了形が例えば四暗刻の成立要件を満たしているなら一色三節高側で取るし、この成立要件を満たさない場合、順子で取れば全帯幺・平和・喜相逢が成立する場合などには一色三同順側で取ることになるのだ。この点で、以前にも軽く述べた麻雀の根本的な原則である「上位役の成立上除外された下位役以外に複合する役は、特別に定めていない限りこれを加える」というルールが重要になってくる。 これを「高点法」と言う。このように、第0章でも書いたが、日本の麻雀ではせいぜい二盃口の成立時か三色同順成立時の符計算くらいしか使うことのない高点法が、ものすごく複雑に関与しているのである。
さて、紹介を続けよう。
・全大(チュェンダー)
全部大きいということである。字面通りなのだが、大きいの価値観について説明すると、123456789を大中小の3ブロックに分けた場合、123は小、456は中、789は大とすることができる。このブロック内の牌のみで構成された和了形で成立する。全大は789である。
・全中(チュェンヂュン)
同じく456。
・全小(チュェンシャオ)
同じく123である。中国麻雀においては、日本麻雀のように色に寄せる・外に寄せるというプレイングの他に上に寄せる・下に寄せるといったことも選択肢があるのだ。
以上9つが24点役である。手役の選択肢がここで大きく増えたように思える。
次に32点役。
・一色四歩高(イーソースーブガオ)
まぁもう分かるとは思うけど三歩高の四歩版である。ここまで行ったなら是非清一色の複合を狙いたい。
・三槓(サンガン)
三槓子である。日本麻雀では七対子や対々和、三暗刻と同じ、清一色の1/3の点数の三槓子が中国では清一色の4/3倍、三暗刻の2倍の点数を持っている。面目躍如と言ったところか。
・混么九(フンヤオヂュー )
混老頭である。三槓子に続いて2翻役がスーパー大出世である(出世というか、こっちが本家なのだから日本において貶められてるという方が正しいのかもしれない)。
32点役はこの3つ。まだまだここから。
続いて48点役。
・一色四同順(イーソースートンシュン)
一色四順というローカル役が日本にもあるが、それである。
・一色四節高(イーソースーヂェガオ )
これは日本の四連刻である。色んなローカル役も、中国役がモチーフになっているのだ。
48点役はこの2つである。両方とも日本では今となってはローカル役に残るのみである。
続いて64点役。日本で言う役満たちだが、中国では複合していく役の上位でしかない。
・清么九(チンヤオヂュー)
日本で言う清老頭である。ただし基本的に碰碰和の形しか認めていない。
・小四喜(シャオスーシー)
日本の小四喜である。
・小三元(シャオサンユェン)
出ました、日本では2翻役の小三元が役満たちに肩を並べている。とは言えこの話は度々書いてはいたのだが。
・字一色(ヅーイーソー)
日本の字一色である。
・四暗刻(スーアンコ)
日本の四暗刻である。
・一色双龍会(イーソーシュヮンロンフィ)
出ました、私の一番好きな役である。三色版を説明したし、この役満については個別の記事があるので詳細は省くが、11223355778899の清一色である。
64点役はこの6つ。まだまだ続く。
続いて88点役。これが最後である。こちらも日本では役満として馴染みあるものが多い。
・大四喜(ダースーシー)
日本の大四喜である。
・大三元(ダーサンユェン)
日本の大三元である。
・緑一色(リューイーソー)
日本の緑一色である。
・九蓮宝燈(ヂューリェンボードン)
日本の「純正」九蓮宝燈である(ここ重要)。日本では結果的に和了形を見て九蓮宝燈となるが、中国では1112345678999の形からの和了りしか認められない。ここへ来て凄まじく難易度が高い役満である。
・四槓(スーガン)
日本の四槓子である。
・連七対(リェンチードイ)
日本のローカル役にある大車輪である。が、とにかく連なっていればいいので、11223344556677でもいいし33445566778899でもいい。
・十三么(シーサンヤオ)
フィーリングで分かるだろうが、これが最後、国士無双である。
88点役はこの7種類である。
以上81種類が中国麻雀の役である。『あれ、天和は?』と言う人。中国にはそんな役は存在しない。役作りを是とする中国麻雀において運の要素だけの天和は定義されていないのだ。
ちなみに中国役の記事で日本役を解説するのもなんだが、現在ではチョンチョンとして一括で取られる親の第1ツモはかつては全員が取り終わってから取っていた。この親の第1ツモを天から最初にもらう牌と言うことで「天牌」と言う。この牌で完成することから天牌で和了る、略して天和と言う(天牌は漫画のタイトルで有名だが、そもそも聴牌をモジったものだと思われている。が、元々ある用語である)。そして、この親が最初に捨てる牌を、最初に地に捨てられる牌と言うことで「地牌」と言う。この牌で完成することから地牌で和了る、略して地和と言う(これは現在では人和と呼ばれる役である)。親が天和だから子が地和で、人が切る牌だから人和みたいなふんわりニュアンスで理解している人が多いが、それは根本的に間違っている。天から与えられた牌を最初に戴くのは親であるべきで、そこから荘家を日本では親と呼ぶ。ここには儒教の考えが読み取れるし、それに合わせて散家は子と呼ばれるようになった。天に一番近いのは山だから積まれた牌を山と呼ぶようになり、地に満ち溢れるのは河だから牌を捨てる場所を河を呼ぶようになったのだ。すなわち山河=天地のことなのである。そう考えると、子が山から引いてきて地和と呼ぶのは明らかに不自然なことが分かるだろうか。ここで「三才」の概念や、孟子の一節「天時不如地利。地利不如人和 」から「人」の字が足されたのである。しかし、そのどれもが中国には無かった役だ。
これは今までに書いたことがあったか憶えていないが、中国では山牌は城壁牌、河牌は屍牌と言う。つまりは国崩しゲームなのである。時間が経つにつれて城壁は削られる(牌山は減っていく)が、それに応じて兵士の屍が並んでいく(河の捨て牌が増える)。そして、流局のことを荒牌と呼ぶ。つまりは成果も得られず残ったのは屍の山だけと言う惨状を表しているのである。
そして、ここからが面白いのだが、中国ではドラも無いし山は最後まで取られるのに対し、日本では山の最後14枚が残される。14枚とは即ち和了形が潜み得る枚数である。これは我々が城を東西南北から攻める攻撃側に対して、守備側の手と言ってもいいだろう。何度も言うが中国では山は残さない。つまりこれは日本で考えられたことになる。日本に麻雀が名称の全てをそのまま輸入された100年前、麻雀は協力敵対をしながら、城が崩し終わるまでに手役を作るゲームだった訳だ。が、それでは一面的なゲームだ。そこで、守備側にも操作できないにせよ権利は与えるべきとて与えられたのがあの最後の14牌なのだ。
さて、城壁を崩した最後、つまり城の最深部にいるのは誰か。王である。つまりあの手牌は王のものなのだ。そしてあの必ず残す14枚は「王牌」と言う。
現在『うわー、俺の待ち山に殺されたわー』とか言う若者たちは、本質を違えている。その剣はただ山に埋まったのでは無い、相手の王によって防がれたのである。 何とファンタジックなことか。
まぁ日本麻雀はさらにその上にドラゴンがいるという凄まじくカオスな城攻めゲームになってしまってるんだが(ドラはドラゴンの略ですし)、途中伝言ゲームがおかしな方向に行ったにせよ、その世界観は受け継がれていると言えるのかもしれない。